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New Balance 990v6(990GL6) 徹底レビュー

 

 

40周年を記念した完全新型の990 第6弾

 

2022年11月に〈ニューバランス〉の990が40周年を迎え、最新型モデル990v6が登場しました。
1982年に初めて登場した〈ニューバランス〉のランニングカテゴリーのフラッグシップモデル990。それまで過去に登場してきた990は4度のアップデートを行い、その姿も少しずつ変わってきました。前作、990v5では直線的なフォルムを感じさせるデザインでしたが、新作となる5度目のアップデート990v6では990v3から990v4にかけての流線形を踏襲し、無駄のないモダンな仕上がりにリファイン。2022年より〈ニューバランス〉初となるクリエイティブディレクター(それもMADE IN USAコレクションの)に就任したテディ・サンティス氏がディレクションしたモデルということで、2021年より自身がインスタグラムに投稿し話題になったモデルがこの990v6です。
もちろんMADE IN USA、米国製です。

 

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990のヒストリー

 

 

改めて〈ニューバランス〉の990のおさらいです。
初代990は1982年に登場。4年の歳月を経て開発から発売にこぎつけました。その後4度のモデルチェンジを経て、5度目の刷新となる2022年のv6に繋がります。初代の発売当時は1ドル280円ほどだった時代。約100ドルというスニーカーとしては超高額な(今も高額な部類ですが)価格設定で市場に乗り込んだ990。もちろんその分、当時の最先端技術を凝縮した非常に完成度の高いシューズだったことはみなさんもご存知の通りで、コマーシャルとして起用されたキャッチコピーの「1000点満点で、990点。(On a scale of 1000 this shoe is a 990.)」はあまりにも有名。

 

愛用者に著名人が多く割愛しますが、よく引き合いに出される人物といえば〈アップル〉のスティーブ・ジョブズ氏です。彼は990や990v2を愛用。その後も991→992と移行。それ以前には999や1300も着用が確認できていることから、長期に渡り〈ニューバランス〉を愛用していたことが伺えます。圧倒的なプロダクトを世に送り出し、全世界の生活をも「それ以前、以降」で語れるほどの影響を及ぼしたジョブズ氏が偏愛とも言えるくらい愛してやまなかった990。他のファッショニスタやアーティストが愛用することとは次元が違い、本質の底の部分から価値と概念を一変させたのがスティーブ・ジョブズ氏でした。

 

990というシューズの目に見えるデザインは比較的複雑な構造をとっており、マテリアルも様々に組み合わさっています。〈アップル〉の「これ以上引けない」を体現したミニマルなプロダクトデザインとはベクトルが違いますし、合わせやすさを考えた時にはマルチな存在とは言えません。ともすれば「かっこ悪い」と形容されかねないデザインです。しかし、そういった事実を踏まえても990には強力なオーラが内在しており、「知る」ことによりあぶり出されていく価値があるのだと言えます。

 

このスペシャルな990というモデルは〈ニューバランス〉の会長 ジェームス・S・デービス氏の承認が下りないと販売できない唯一の品番であり、その事実から言えることは「〈ニューバランス〉が考える最高のスニーカー」の具現化を目指したモデルということです。

 
 
 

99Xのヒストリー

 

 

99Xシリーズとして見ると実に様々なモデルがこれまで登場してきました。とりわけアニバーサリーモデルとして扱われることも多かったことから、いかに〈ニューバランス〉にとって重要なポジションだったかがよく分かります。990v6は「990の40周年」という位置づけで2022年11月に先行発売され、抽選販売で完売。基本的にはレギュラーモデルであり限定品ではありませんが、990〜993あたりの品番は特に人気が高くしばしば抽選になってしまいます。ESSENCEでも初回入荷時は抽選でしたが現在は通常販売を行なっています。

 
 
 

アッパー

 

 

アッパーにはメッシュをベースにピッグスキンスエードで囲み、ヒールにはTPU素材のバックタブ、サイドにはリフレクタを配置。そしてシンボルとなるNマークをレザーパーツの下に大きく配置した「アンダーレイヤー扱い」となった点が今までにないデザインとなっています。通気性向上を始めとしたデザインの都合から、必然的にピッグスキンの面積は990v5と比べると減っています。
特にサドルに相当するN周りのレザーが占有していたパーツ面積がほぼなくなったことで、抜けの良いデザインに変わりました。

 
 

 

他の990シリーズと比べて上から見るとスッキリしたシェイプになっています。ノーズが長く見えるようなパーツ配置の影響かもしれません。「N」ロゴの位置がグッと後ろに引いて見えます。ミッドソールにはこれまで以上のボリュームがあるためバランスを考えたデザインなのだと思います。

 
 
 

ソール

 

 

ミッドソールは2種。ホワイトのミッドソールにはクッション性と反発性に優れた「FuelCell(フューエルセル)」を採用しています。前足部もFuelCellですが反発性を高めるためにやや固めの硬度に設定、ヒール部分は衝撃吸収製を高めるためにやや柔らかめの硬度に設定しています。
グレーのミッドソールは優れた安定性を発揮するポリウレタンです。こちらは硬めで安定性を高める役割があります。更に、インサイドとアウトサイドで隆起の異なるアシンメトリーな形状を採用しています。
これまで990v2以降、990v5になるまで使われていた衝撃吸収ミッドソールの「ABZORB(アブゾーブ)」からFuelCellに切り替わったことで驚きを隠せないユーザーも少なくありませんでした。
「厚底」と評される存在感を放つミッドソールは、確かに厚みを増していますが、インソールはミッドソールよりも若干ですが低く位置しており、座りの良い着用感を実現しています。

 
 

 

柔らかなフォームで硬めのフォームをサンドする構造を「ENCAP®(エンキャップ)」と呼びます。〈ニューバランス〉が長らく起用している独自のクッショニングシステムです。サンドする側を通常のポリウレタンミッドソールからFuelCellに置き換えたことで、加水分解にも強くなっています。※
990v6の場合、グレーの部分がENCAPの中心構造を担っており、前足部とヒールに使われたホワイトのミッドソール(FuelCell)でサンドしています。
もともとENCAP®はオーバープロネーションを防ぐ目的で誕生しました。オーバープロネーションは立脚時に脚(かかと)が内側に倒れ込むことを言い、これが起こると脚や膝に大きな負荷がかかります。そのためENCAP®によって矯正・サポートするというのが設計思想になっています。

 

※990v6に使われるFuelCellはEVA(エヴァ)をベースに独自配合を行い衝撃吸収・反発弾性・軽量化を実現していますが、ランニングシューズで使われるFuelCellはポリウレタンベースのものもあります。

 

一方で、FuelCellは安定性が低いことが指摘されており、FuelCellの恩恵を受ける意味でも大きめのTPUバックタブと、せり上がるミッドソールによって広くヒールを支えることにしたのではないかと考えます。この点を考えるとやっぱりランニングシューズを出自にもったスニーカーだと納得できます。

 
 

アウトソールはグリップ性に優れたソリッドラバーの「N durance®(エヌ デュランス)」。グリップ性に加え高い耐摩耗性を実現し、ヒール部分の摩耗を抑えます。さらにヒール中央をくり抜いて外周部にラバーを配置したことで安定性を向上させています。

 
 
 

パーツ

 

 

シュータンはブランドロゴとともに「990v6」のネームを、シューレース前方にはリフレクタパーツで「NB」のフライングロゴを配置。ヒールにはフライングロゴと「MADE IN U.S.A.」の文字が確認できます。ヒールカウンター側面には楕円で囲んだ「990」のプリントをあしらっています。

 
 
 

ライニング/インソール

 

 

990の伝統的な製造方法の要とも言える「スリップラスティング」を踏襲しています。スリップラスティングは「袋縫い」とも呼ばれるライニングの製造方法で工数が格段に上がるためコストも上がりますが、その分足を包み込む構造がフィッティングに直接影響し、履き心地も格段に増強できます。990は初代よりこの仕様にこだわり、現在まで採用され続けています。
インソールは特別なものではなく、従来のインソールと同様のものが使われています。990v5で使われた「OrthoLite®(オーソライト)」は使われておりません。事情は不明ですが、FuelCellの高反発性能を最大出力にするために必要以上の衝撃吸収を避けているかもしれません。

 
 
 


 

インプレッション

 

 

少なくとも2000年代以降の990は、ランニングシューズとして役割とは変わり、実質的には「ライフスタイルシューズの最高峰」という位置づけになったと考えて良いでしょう。今やシリアスランナー向けのシューズは極端なまでに軽量化が進み、とてもじゃありませんがレザーを使っている場合ではないからです。加えて〈ナイキ〉に代表される厚底のトレンドの流れの中では990は記録を出すモデルとは言えません。また、普段ジョギングをする程度に使うにしては高価すぎます。「ライフスタイル」カテゴリから出ていることから、この立ち位置は明白。ただし、当然のことながらランニングシューズとしてしっかり使えるシューズであるという点は補足しておきたいです。

 
 

 

しかしながら「そこは汲み取った上で」というのが990の現在の立ち位置というふうに受け取ることもできます。
長距離を走ったり、速度を出したりするための靴ではなく、生活品質を最高なパフォーマンスまで高めるシューズとしての役割が最重要課題と捉えれば不自然なことはありませんし、USAの工場ができる最高の仕上げをアウトプットするためのシグネイチャーでもあります。

 

〈ニューバランス〉は本来、アーチサポートインソールや扁平足の矯正靴製造から誕生したメーカーであり、大本はスポーツではなく人の足をサポートするための道具を作る企業です。それは生活に根ざした悩みであり原点。この原点に立ち返るような想いが990の最新モデルに宿っているような気がしています。990の原点だけを辿れば間違いなくランニングシューズの出自ですが、990の意味自体が時代とともに変わっていたのだと理解することもできるでしょう。

 
 

 

990に対する意味の汲み取り方と表現文法がサンティス氏の手腕の見せ所です。〈ニューバランス〉がなぜ115年の歴史の中で彼を選んだのでしょうか。それはスニーカーのデザインやサンティス氏の背景から一部分を明らかにすることができます。

 
 
 


 

デザイン

 

 

990v6に対して、大きくデザインの指針が変わることへの賛否両論はここまでいくつも見てきました。2021年にリーク画像が世に出た頃(画像自体はサンティス氏本人による本物だったわけですが)、やはりというべきか「v3やv4こそ至高」と考える人もいれば、990v5からまた990v4へ戻ったような曲線美に好感触を示した方もいらっしゃいました。全てが愛情からくる声であり、正しい/間違いでは計れません。
多くの方がお気付きの通り、今回の990v6は一見すると全てが刷新されたように見え、その実、デザインコンテクストは991や992からの参照を感じます。

 
 

 

パーツは一つ一つの面積が占める割合が極端に減ったため、良くも悪くもフラットに見えていたアッパーのデザインにシャープネスがかかりました。990シリーズは基本的に上(履き口)から下(つま先)へ各パーツのラインが下降する設計になっていますが、990v6はさらに水のように重力に逆らわずに流れるデザインが強調されています。
また、各レイヤーが整理整頓されたことで小気味よく、かなり無駄のないアッパーになった印象です。これが大きく賛否両論を生んだ要因となったのではないでしょうか。
Nマークの使い方に関しても、「否」の意見の中では「〈ニューバランス〉にしてはモダンすぎる」といったきらいがあるように見受けられます。

 

誤解を恐れずに言えば「〈ニューバランス〉はダサくてなんぼだろ」的な主張に集約されるのかなとも思います。990v6はかっこよすぎるんです。ただ個人的にはかなり良いコースに球を投げてきたと受け止めています。現代に迎合しすぎるわけでもなく、今までのレガシーをうまく取り入れつつ昇華したと考えると、バランスはギリギリの線を突いたと感じ取れます。アメリカの土着的要素が少し薄まった感は否めませんが、初代から40年経過し「Version」で区切ってきたモデルだからこそ、似て非なるものでなければいけないと判断していると、私自身は考えます。
サンティス氏が自身のブランド〈エメ レオン ドレ〉でその態度を示してきたように、ストリートの次にあるシンプル&クリーンなアメリカの世界観を990v6に運び込んだようにも見えるのです。

 
 
 


 

テディ・サンティスが考える次世代の「アメカジ」

 


©New Balance

 

〈ニューバランス〉は2020年にサンティス氏がクリエイティブディレクター就任発表前に〈エメ レオン ドレ〉とのコラボレーションでBB550を復刻させた経緯があります。2021年11月には993、2022年2月には993でもコラボレーションするなど、次々と手腕を発揮し続けているのはご承知のとおりです。
過去には〈クラークス〉のワラビーや〈ナイキ〉のエアフォース1も手掛けてきたこともあります。〈クラークス〉はイギリスのブランドですが「アメカジ」の文脈で捉えることもできます。アメカジというカルチャーは80年代から特に90年代の日本で育まれ、後に世界に伝播していきました。その影響はカニエ・ウェスト氏の右腕だった故ヴァージル・アブロー氏や〈ディオール〉のキム・ジョーンズ氏や〈バレンシアガ〉のデムナ・ヴァザリア氏など、今のトップメゾンのデザイナーたちを見れば分かることでしょう。

 

もともとアメカジにはそれだけの強度が備わっていたという証明でもありました。なにもミュータントのように突然変異種が表れたわけではなく、オリジナルはずっとそこにあり、それは彼ら自身であり、本当のフレーバーは彼らにしか表現し得ないものです。それがこの時代に成熟してきた感覚があります。

 

カニエ・ウェスト氏が〈ギャップ〉をパートナーに選んだり(後に解消したが)、ジャスティン・サンダース氏による〈ジョウンド〉が新しいアメカジを提示したりと、アメカジが変わってきた中で、サンティス氏の視点における〈ニューバランス〉が今までの〈ニューバランス〉と「アメカジ」の関係性を前に進めることは間違いありません。
サンティス氏を含め、彼らはピュアなアメリカンストリートから発生した現象をリアルな生活に根付かせてくれました。クールなものとはなにか、本当の意味で知っている人たちは彼らです。ハイアンドローが自然に混ざり合うのが常であり、そこに壁はありません。新しい990にはそんなニュートラルな姿勢が表れたとも言えるでしょう。ニューノーマルな990であり、ニュースタンダードな990なのです。

 
 
 

 

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番外編

 

こんにちは。Nです。
ここまでは真面目に990v6を語ってきたわけですが、ここからは必要のない人には全く意味をなさない私的レビューをより色濃くしていこうと思います。
読みたい人だけお読みください。

 

まず最初に、この990v6の記事を書き始めたのは2021年の暮れのこと。「これはとんでもないのが来たな」というのが第一印象でした。これをうちで捌くのかと。たくさんの人の手には渡らないけど、このシューズの表層だけじゃなくストーリーも含めてどう見てもらおうかと考えはじめ、発売が確定し公開するまで結局2年も経ってしまいました。度重なる延期に合わせ、リライトに次ぐリライトをしまくってようやく今ここにおります。

 

ここまで読んでくださっている方なら当然ご存知のように、990v6は当初2022年2月頃の発売を噂されていました。が、これは全くのデマでした。実際には2022年4月発売を見込んで進めていた予定でしたが、生産上の都合で折り合いがつかず、結局「先行発売」という形で2022年11月に一部のアカウントに限定してローンチされました。そして2023年2月に本格的に発売となった次第です。

 

2022年が990の40周年だったことを考えれば、どうしても年内にリリースしなければならない一方で生産量が予定より少なかったことで先行発売に落ち着いたのかなと推測しています。パンデミックの影響で一時期は工場の稼働が止まっていましたし仕方がなかったかなと思います。

 

私の遍歴を勝手に述べさせていただきますと、〈ニューバランス〉はあまり多くは持っていませんが、これまで1300、1400、993、過去にはミニマスのML71なんかを愛用してきました。子供の頃にはトレッキングシューズも履いていた記憶があります(H515というやつです)。2022年11月の先行抽選の際に公式で当選(ブロンズでも当選しますよ)し、初めて990シリーズを手にすることとなりました。現在所持しているスニーカーは全てMADE IN USAなんですが、全部に共通して言えるのは、特別高品質ではないということですね。誤解なきよう言っておくと革の質とか設計自体はとても良くできていますが、MADEシリーズのスニーカーは手作業の割合が比較的多く、個体差がわりかしあるんですね。おそらく〈ニューバランス〉ファンなら体感済みだと思います。ステッチが1ミリもずれないとか、革の切り方が毛羽立たないとか、そういう意味での品質は手作業っぽさが比較的含まれています。アジアンメイドの方が精度は出ます。
アメリカの工場の中核をなすローレンス工場は最新技術を積極的に導入していますが、熟練の職人が多く在籍するスコヘーゲン工場なんかはもっと手作業の割合が大きいのだとか。

 

今回のようにローンチして間もないモデルで言えば、職人がまだ作り慣れておらずバラツキは他のモデルと比べると大きいのかなと思っています。990v6に限ったことではありませんが、どうしたって人の手が入るプロダクトは、どんなものでも初年度よりも10年後の方が遥かにレベルの高い製品づくりが行えるものです。そういう意味では初回ロットで入手するのは最善策ではありません。しかし、やっぱり早く見たいし早く履きたいという気持ちやテンションはなにものにも代えがたい。

 

さて、レビューなんですが、990v6はちょっとデジタルっぽいっていうか、なんとなくですが「〈ニューバランス〉のスニーカーをメタバースで履くならどのモデルよりも990v6」って感じがするんですよね。一見して〈ニューバランス〉だって誰もが分かるけど、他のモデルよりも無味無臭で味付けがさっぱりしている感じ。それでいて個性はしっかりある。まあこれは感覚の問題なんですけど。シュータン中心にある「◀ ▶」もデジタルネイティブ以降のデザインな気がするんです。
ところが、背景を考えればアメリカの工場で作られていて(今回当選したものを見るとローレンス工場製造のようです)、そのアナログというかリアルな部分とアンリアルっぽいアウトプットが面白いなと思っていました。

 

上で「整理整頓された」と書いたのですが、アッパー自体そんなにミニマルではありません。むしろレイヤーを数えると(細かく見れば)7もあり、歴代の990の中で最も複雑さを伴うデザインになっています。なんですが、そうしたことをあまり思わせないくらいキリッと整然とレイアウトされているからすごいですね。見れば見るほどよくできていると実感します。

 

ミッドソールの厚みから「ダッドシューズっぽい」と形容されることも少なくないようなのですが、〈ニューバランス〉自体がダッドシューズそのものでは?とも感じていました。そもそもダッドシューズはおじさんが履いてるっぽいシューズから派生した言葉で、ハッキリした言い方をすれば垢抜けないスニーカーのこと。ところが990v6はその逆方向のような気がしてなりません。むしろ歴代の990v6の中では最もスタイリッシュです。ちょっと垢抜け過ぎたくらいで、結局それこそが賛否両論だったんだと思うんですが、評価の点でその矛盾をはらんでいることが度々あります。

 

履き心地については自分がこれまで履いてきたあらゆるシューズの中ではダントツに良いです。自分は〈ナイキ〉のエアフォース1の重さも好きだし、ダンクのフラットなノンエアの履き心地も好き。ただ〈ニューバランス〉のシューズって足に過保護なくらい包み込まれる気持ちよさがあるじゃないですか。あれに加えて、ENCAP構造のミッドソールでFuelCellの弾むような推進力が味わえるのでどの990とも別物。フカッと沈むような感覚と前に歩きだしてしまう感覚の両方があるんです。本当にすごい履き心地です。長時間歩かなければいけない時は間違いなくコイツを選びますね。
ちなみに〈ナイキ〉と同じサイズでちょうどよく履けます。

 

円安の影響をモロに食らって税込み3.6万(2023年9月現在)となかなかに打撃の大きいスニーカー。ただ、裏事情的には円安じゃなくても3万は超えてたと断言できます。で、〈ニューバランス〉のシューズで常々課題となっている加水分解問題。最高の履き心地が味わえるとは言え、いずれ朽ちる命だと分かりきっていて3万出すのも結構ハイリスクなことなんですが、990v6でその点を改善してくれるかな?という期待もありました。実際にはポリウレタンは使われていますが、これまでの何の遠慮もないポリウレタン使いと比べるとかなり配慮されてきた感じがしませんか?ABZORBに代わって起用されたミッドソールのFuelCellはEVAを使っていて加水分解に強いですし、今までのENCAP®って基本的にコアのEVAをポリウレタンでサンドする、という組合わせだったのに対して、990v6はEVAでポリウレタンをサンドする逆の配置になっていてポリウレタンの使用割合が減っています。宿命とは言え、リスクが減ったことで今までよりも長く付き合えるスニーカーになったのではないかと現時点では評価しています(ABZORBはポリウレタンを使っています)。

 

近年の〈ニューバランス〉の中でも最も大きな話題をかっさらっていった990v6。他にもたくさんのスポーツブランド、アウトドアブランドから話題のスニーカーが出ている中で、「履き心地はどうなんだ」「992より良いのか」など快適性に重きを置く人が多いのはやっぱり〈ニューバランス〉ならではですね。ルックスにばかり注目されがちですが、履き心地というのは飽きる飽きないでは語れませんし、これまでの様々な〈ニューバランス〉の名品と呼ばれるモデルも、デザインよりも履き心地のプライオリティが高かったたんじゃないかなと勝手ながら思います。
一方で過去の〈ニューバランス〉と違いユーザー数が格段に上がった今を考えれば、デザイン的に飽きる飽きないを基準にされている方も増えたことでしょう。

 

で、その気になるデザインでみんなが突っ込んだソールの厚みに関して。全部ではありませんが部分的にインソールの高さよりミッドソールの方が若干せり上がっているんですね。足入れすると外から見えているソールよりもやや下にインソールがあって、そこに足が接地します。ですから言ってみれば逆シークレットシューズみたいな感覚です。見た目より背は高くなりませんし、厚底シューズ的な評価は実際的ではないと思っています。
スタビライザーを廃止して、代わりにミッドソールが安定性を兼任しているような印象を受けました。併せてバックタブのTPUの面積は過去作よりはるかに大きく、かかとを左右のミッドソールとヒールのバックタブでサポートしているのではないかと考えました(多分)。

 

今後の流通については、しばらくの間は生産量の限界をひしひしと感じるので流通しきるのはまだ先かなという見通しです。当店でもシーズンごとに卸していただいていますが、まだまだ少量。ミタスニーカーズの国井さんが最初の抽選販売時に「申込数が尋常じゃなかった」とインタビューでおっしゃっていましたように、全然行き届いていないという実感はあるようです。抽選ではなくなったとはいえ、今もグレーのモデルはなかなか入手できませんね。

 

長々と一方的に語ってきましたが、元も子もないことを言えば他人の評価など気にせず好きな人は履いてほしいですし、人気があろうがなかろうが好き!最高!ならそれでいいと思います。多くのレビュアーやユーザーの中でも実物を手にして「最高」「思ったほどじゃない」「前作の方がいい」など評価が分かれています。そういうものだと思いますし、自分は声高に「最高」と言いたい。

 
 
 

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